現実の重さとフィクションと。

 先日、今までやったことのないような、華やかなロマンあふれる漫画雑誌資料をいただきました。今の私には遠いような。しかし幼いころ読んだ『なかよし』のあさぎり夕先生の世界だ、と思うとDNAに確実に組み込まれているのを感じながらも。ぼんやりと読んだ後に『さぁ。ご飯、ご飯』とその本を段ボールに直しました。

 その週末、私は郊外にある某医療資料館を訪ねました。普段乗らないバスに乗り、かつて彼らが「御召列車」と自嘲気味に呼んでいた列車の路線に乗り。秋の日がきらきら光る武蔵野の郊外駅に降り立ちました。MDウォークマンから流れるレディオヘッドは、怖いくらいきれいな音を奏でていました。

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その日は資料館でシンポジウムがあって、入り口には長いアンテナを立てたNHKの機材車が泊っており、関係者や従事者のような人がたくさんいました。私のような個人はほとんどいなかったように思います。そして…とても来たかった場所のはずなのに、なぜか激しい緊張感に急に襲われて。なぜだろう、と自分に問いかけながら、常設展示や企画展の、激しい肉声証言に食い入るように見入って。図書室では資料を大量にコピーさせてもらい。私は閉館時間ぎりぎりにようやく桜並木の玄関へ出ていきました。

 そして、とにもかくにも納骨堂へ行かなくては、と思い、案内表示を頼りに林へ入ると。そこは「日本の中の奇妙な王国」でした。

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 かつてその病気に罹患した人々は、故郷からも家族からも引き離されて、そして「人間」からも引き離されそうなその病とともに、ここで労働生活させられていました。

まさに、ここは、その場所、だったのです。いえ、今もそうなのです。

私の緊張感は、この場の発する熱だったのだ、と気づきました。

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今は法律も廃止され、啓発活動のためにも、この場所は地域の人も行きかう場、となりました。しかし、やはりまだまだ閉じられた世界。

この中で、じっと自分の命と向き合う果てしなく長い歳月…『世間』とは完全に別の時間が流れている。ここから見た夕陽が、いつも見る夕陽と同じとは、にわかに信じられない気持になりました。言葉を、思想を失います。

「にゃぁ。」

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人懐こい猫が、私を現実の温度に引き戻してくれました。

 それから不慣れなバスにゆられ、大きな団地群を抜けて家に帰り。ほっとした時に、ふと。「あぁ、あの…現実離れした、豪華なロマンス漫画が読みたいなぁ…」と思いました。そうだ、困難な現実に押しつぶされそうになるほど、人はフィクションを求めるのだ、少なくとも、私は。

 今、あそこにいる人々はかなりの高齢者だろうけど、かつてあそこにいた若者の中に、毎月の漫画雑誌を楽しみにしていた人がいたかもしれない。

 そう思うと、この漫画業界の、端っこにでも存在できている自分は、しっかり立たなくちゃ、と身が引き締まるのです。

 

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プロフィール

コキ

Author:コキ
こきあい りん(小樹藍りん)。漫画家。
白泉社「別冊花とゆめ」にて商業誌デビュー。
その後秋田書店などを経て現在は集英社クリエイティブ「オフィスユー」で『ニセモノ彼女の本当の恋』を連載中。
他白泉社「LoveSilky」で読切描いてます。

同人活動は主に『ひきこもり修道女日記』というどたばた神様コメディ読切シリーズをコミティアで刊行中。

『ひきこもり修道女日記総集編上下』をCOMICZINで通販中。
角川BOOK☆WALKERからは電子配信中。
各話バラでダウンロード販売をDLsite.comでおこなっております。

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