あの頃の彼女。

いつもブログ見てくれる方々、本当にありがとう☆

小樹藍、東京へ帰ってきてました。



ところで。



先日の関西コミティアの後、ふと思い出したことがある。
 


あれはもう十五年くらい前、私は初めて同人誌即売会に参加した。


イベントのすぐ後に、筆の楷書で書かれた丁寧な手紙が郵送されてきた。私の初めての同人誌『いちご劇場』にとても感激したので、ぜひ一度お会いしたい、というものだった。待ち合わせ場所に、相手の女性は私の同人誌を持って立っていた。彼女は私とほぼ同年代のとても綺麗な、フェロモンのある女性だった。



そこから彼女の家にお邪魔することになった。彼女の家は大阪下町の、あまり日当たりの良くない長屋だった。しかし、玄関近くの小さな台所には、アフタヌーンティのティカップ。ストロベリーティ。そして手作りのデコレーションケーキが綺麗にセットされていた。


私の同人誌に「いちごのデコレーションケーキに埋もれて死にたい」という少女が出てきたからだ、と彼女はいった。


私は感激した。


その後、何度か行き来するようになった。


自分も漫画を描いている、という彼女は『私もりんちゃんみたいな漫画、描くんだ』と、漫画の構想をよく語ってくれた。ちょっとサイコでシュールで、劇的で。彼女の構想は面白かった。



でも、彼女が自分の漫画を完成させることはなかった。


私が東京へ出てきた頃から、彼女は手紙が来るたび仕事が変わっていた。


絵画の販売、あちこちのパーティコンパニオン、そして岐阜の下呂温泉で住み込みで働いている、という便りを最後に、音信は途絶えた。


数年前、思い切って実家に連絡したが、行方はわからなかった。



今でも、彼女が本当に存在していたのかわからなくなる。ひょっとして私は自分の漫画を好きといってくれた事だけで満足して、彼女のことを全く理解していなかったのでなないか、と。
 



もう一人印象深い人がいる。


そのころ私は同人活動と同時に投稿を繰り返し、いくつか雑誌で賞を貰い始めたころだった。そんな時、自分も投稿しているのだが、伸び悩んでいる、と相談の手紙をもらった。


家が近かったこともあり、近所でご飯を食べることにした。彼女の指定したレストランで、彼女の原稿を見せてもらうことにした。


訪ねたイタリアンレストランは、他には誰もお客がいなかった。そして食事が激しく美味しくなかった。静かに話せるからここを選んだのかな、と思った。


そして恐る恐る見せてくれて原稿を見て、がく然とした。ペンを握って、数年経ってて、この画力か。というか。全くペンの使い方にすら慣れていない、わかっていない。
 


私はそれまで、人間には自然に『技術を獲得する力』というのが備わっていて、いうなれば「すきこそモノの上手なれ」だと思っていた。


私は自分が決して絵がうまいタイプではないが、だからこそ断言する。


ただ描いていて、うまくなるものではないのだ、と。



その時の彼女に私は何を言ったか覚えていない。


でも思った。


この人は決して漫画家にはなれない。



その時の彼女は皮膚病を患っていた。

彼女の皮膚と、ぎざぎざの線の絵が重なって、今も突然前触れなく思い出す。





自分の漫画の世界に向かって、じっとしずかに潜っていると、ぼんやりとした水底で彼女らが時々こちらを見て微笑んでいる。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

コキ

Author:コキ
こきあい りん(小樹藍りん)。漫画家。
1998年白泉社「別冊花とゆめ」にて商業誌デビュー。
その後「シルキー」、宙出版「いちばん怖くて綺麗な童話」「恋愛白書スタート!」秋田書店「ミステリーボニータ」「プリンセス」「恋愛よみきりmax」「プリンセスゴールド」「プチプリンセス」などでお仕事。

得意は不思議ショートと情熱恋愛もの。

現在は集英社クリエイティブ「オフィスユー」などでお仕事。

同人活動は主に『ひきこもり修道女日記』というどたばた神様コメディ読切シリーズを刊行中。

『ひきこもり修道女日記総集編上下』をCOMICZINで通販中。
各話ダウンロード販売をDLsite.comでおこなっております。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
DLsiteさん
ひきこもり修道女シリーズ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード